御堀の松籟心地よく、三日月掛かる秋の空、石川、小泉、上西に、一年ぶりに招かれて、同窓会をやるべぇと、三十六年卒業の、ずいと乗り込む銀座ライオン、ビアガーデン、大手町の真ん中で石川ならぬ神田川、幹事の談合掛け合い人は、ぐっと飲み込む慈姑なり。
心持よくうかうかと、浮かれ鴉のただ一羽、遠い陸奥思い出し、ふと思い立つ戯言は、仙台訛りの片言混じり、戯作気取りにご挨拶。未年の霜月半ばの十と六日、午の時刻をたがわずに、東夷南蛮北狄西戎天地乾坤津々浦々、「暫く、しばらく」の声かけあって、男の花道颯爽と、馳せくる同期の健児その数は、十に余る十有五人、まずは生き抜いてこそ、男の冥利。元気の秘訣は、三道楽、煩悩則菩提とは、はて、下世話に語るすべもなし。開宴記念の揃いの写真。閻魔庁の浄玻璃の鏡に映す我が姿、誰そ彼はとは聞こえぬぞ。人生の黄昏迫る歳月に、刻みし皺と白髪は名誉のしるし。
開宴挨拶そこそこに、乾いたのどに流し込む麦酒に、日本酒、ウイスキー、酒の肴は話の彩。卒業以来五十四年、土曜の授業は休講で、水曜日は自主半ドン、カイロ落ち、ナセルの心今ぞ知る、詠み人知らずに頷いて、百分授業は休憩時間、寝言歯ぎしり鼾はご法度。思い出多い名講義、ダルマストーブの講義室、午後の授業は映画館、ヘップバーンに吉永小百合、アランドロンに裕次郎、思い出多い名画座や銀映は遠い昔の物語り。
西の平の夕焼け小焼け、芒が原の赤とんぼ。桜の三神峯花より団子、夏の松島海坊主、紅葉の作並芋煮会、冬の蔵王で雪だるま、四季折々を楽しんで、ボートの練習貞山堀、評定河原の定期戦、テニスの試合は宮城野原、暗くなるまでボールを追いかけ、行き着く先はゼロ番丁、準備の時間を待ちかねて、毎度お世話のコップ酒、追われてきたのはいつの日か。勝っても負けてもまず乾杯、酒の肴は海鞘に笹かま、鰯の頭も信心から、そして、今宵も東南西北白発中。やはり今夜も終電間に合わず。手違い間違い勘違い、青春時代は気が狂う、恋の手習いつい見習いて、恋のいろはにほの字を書いて、それで浮名は散りぬるを、しがねぇ恋は情けが仇、恋と食い気を比ぶれば、恥ずかしながらひもじさ勝り、お釈迦様でも気が付くめえ。
卒業研究は骨休め、実験の理由もわからずに、ただしごかれて、何のためやらいまだに不明。思い出話はほろ苦い。竹に雀や伊達模様、七夕飾りや大学祭、磊々峡の散歩道、青春時代は万華鏡。今日は見えない同窓生、今頃どこでどうしているのやら、人の噂に戸は立てられず、遠慮会釈の有らばこそ、身の行く末は気掛かりなれど、辛気な話は捨て衣、いずこも同じ秋の夕暮、金が物言うこの憂き世、鏡に恨みは数々ござる、無限の鏡やら手水鉢も叩いてみたいは人の常、栄華は邯鄲夢枕、奢る平家は波枕、色即是空空即是色、盛者必滅会者定離、頑張れ三六卒業生。
まずは本日これきりと、千秋万歳目出度くお開きと、本に今宵は、思い出一杯腹一杯、麦酒も程よく身に回り、酒手をはずんで勘定済まし、財布の底の有金は、次回の葉書代には足りようか、喜寿の祝いは名目で、またの逢う日を楽しみに、胸いっぱいの思い出を、こいつぁ今年も縁起がいいわぇ。
平成27年11月16日、
昭和36年通信工学科卒業 同窓会を記念して
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